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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和50年(行コ)40号 判決

控訴人 井村幸裕

被控訴人 敦賀税務署長 ほか一名

訴訟代理人 笠原昭一 西川勘次郎 ほか四名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事  実 〈省略〉

理由

一1  本件更正請求却下処分(以下本件原処分という)について

控訴人が、昭和三九年三月所轄税務署長に対して、昭和三八年分の譲渡所得なしと記載した同年分所得税確定申告書を、昭和四〇年三月一五日同じく昭和三九年分の譲渡所得を一〇〇万円と記載した同年分所得税確定申告書を、ついで、昭和四〇年一一月二二日上京税務署長に対して、昭和三八年分の譲渡所得一、七四七万五、〇〇〇円、申告納税額八三五万六、九四〇円、昭和三九年分の譲渡所得一、六〇一万〇、五一三円、申告納税額七六五万五、一一〇円と記載した所得税修正申告書をそれぞれ提出したこと、同税務署長が右昭和三八年分所得税修正申告について、重加算税二五〇万五、六〇〇円の賦課決定を行ない、昭和四一年一月一〇日付で控訴人にその旨を通知したこと、控訴人が昭和四一年六月二九日同税務署長に対し、本件譲渡資産の譲渡と本件買換資産の取得は、昭和四〇年法律第三二号による改正前の租税特別措置法(以下旧租税特別措置法という)第三八条の六第三項に規定する個人がその事業用資産を買換えた場合に該当する旨主張し、前記修正申告に係る昭和三八年分の所得中譲渡所得を零とし、従つて、同年分申告納税額を四、六二〇円とし、また、昭和三九年分の所得中譲渡所得を零とし、従つて、同年分所得税額を二万〇、四〇〇円の赤字にそれぞれ更正することを請求したが、同税務署長においては昭和四二年四月二六日控訴人に対し、右更正請求がさきの修正申告のなされた日の翌日から起算して一月を経過した後でなされているので不適法であるとして、これを却下する旨の処分(以下本件原処分という)をなしたこと、控訴人がその後住居を被控訴人敦賀税務署長の管轄区域内に移したこと、被控訴人敦賀税務署長が昭和四三年一〇月五日控訴人に対し控訴人の昭和三八年分、同三九年分の所得税を減額する更正をしたこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

また、控訴人が昭和三八年五月二一日原判決添付別紙一記載の資産を大阪市に特定公共事業用地として買収されてこれを譲渡し、三五、一〇〇、〇〇〇円の譲渡所得をえたこと、同資産が事業用資産であつたこと、さらに、昭和三九年六月から同年一二月一四日までの間に同別紙二記載の資産を右同様に譲渡し、三〇、五七一、三〇六円の譲渡所得をえたこと、同資産が事業用資産であつたことは被控訴人らにおいて明かに争わないところで、その自白があつたものとみなす。

そして、弁論の全趣旨によれば、被控訴人敦賀税務署長のした前記更正決定は旧租税特別措置法第三三条の三第四項ないし第三八条の七第二項に基づくものであり、その内容は別表のとおりであつたことが認められ、これに反する証拠はない。

そうすると、本件原処分は敦賀税務署長が昭和四三年一〇月五日控訴人の昭和三八年分所得税三五八万五三〇〇円、昭和三九年分所得税四、一六四、七〇〇円と更正したことにより修正申告に基づく右各課税額との差額の限度で本件原処分の一部はすでに取消されたこととなるが、右は各一個の処分の一部のみに関するものであるから、それだけで、本件原処分の取消を求める本件請求を不適法ならしめるものではない。

ところで、控訴人は本件において旧租税特別措置法第三八条の六第三項、同第三八条の七第二項の各規定の適用がある旨主張しているが、旧租税特別措置法第三八条の六第一項第三項によれば、個人が昭和三八年一月一日から昭和四二年一二月三一日までの間に、いわゆる譲渡資産を譲渡し、当該譲渡の日の属する年の翌年中にいわゆる買換資産の取得をなし、かつ、当該取得の日から一年以内に当該買換資産を事業の用に供する見込である場合においては、大蔵省令で定めるところにより納税地の所轄税務署長の承認を受けたときは、当該譲渡による収入金額が、税務署長の承認を受けた当該買換資産の取得価額の見積額以下である場合に当該譲渡に係る資産の譲渡がなかつたものとすることとされ(同法第三八条の七第二項によつて準用される)同法第三六条第三項によれば、土地収用等により資産を譲渡した者が所定期間内にいわゆる代替資産を取得した場合において、その取得価額がさきに税務署長の承認を受けた取得価額の見積額を超えるときは、当該代替資産を取得した日から四月以内に、納税地の所轄税務署長に対し、その収用等のあつた日の属する年分の所得税についての更正の請求をすることができるものとしているのであるから、控訴人が前記第三八条の七第二項の規定の適用を受けるためには、買換資産を取得した日から四月内に、更正の請求をすべきであるのにかかわらず、控訴人は本件各物件取得の日から六月以上を経過した昭和四一年六月二九日に至つて始めて更正の請求をした旨主張しているのであるから、右更正の請求はその主張自体から不適法であることが明らかであるといわなければならない。

控訴人は、右の四月という期間は買換資産の取得価額確定の日又はこれを事業の用に供し始めた日から起算すべきであると主張するが、四月の起算日を控訴人主張のように解することは、右明文の規定に反することとなるので、控訴人の主張は採用できない。

また、控訴人は、本件においては、右のような四月の期間の制限は宥恕されるべきであると主張する。

旧国税通則法第一一条は、税務署長等は「災害その他やむを得ない理由」により、国税に関する法律に基づく請求等の期限をその理由のやんだ日から二月以内に限り延長できる旨定め、災害や、通信、交通その他の状況によりやむを得ない理由があると認められる場合について、期限延長の道を開いている。しかしながら、控訴人が請求原因2の(三)において主張しているような事由は、右規定にいう「災害その他やむを得ない理由」に該当しないものといわなければならない。

そのうえ、昭和四五年政令第五一号による改正前の国税通則法施行令第三条の規定によると、税務署長に対し期限の延長を求めるためには、理由を記載した延期申請書を提出しなければならないが、控訴人が上京税務署に対し延期申請書を提出したということについては、主張も立証もなく、この点からも期限の延長は認められない。

従つて、昭和三八年分所得税及び昭和三九年分所得税の更正を求めて控訴人が昭和四一年六月二九日に行なつた本件更正請求は、旧租税特別措置法第三八条の七第二項及び第三六条第三項に規定する請求期限を徒過しているから不適法であるといわなければならない。

ところで、上京税務署長は、前記のとおり本件更正請求が修正申告の日から一月を経過してなされた故に不適法であるとしてこれを却下しているが、その理由は適切でなく、本件更正請求が、結局、不適法であることはさきに説示したとおりである。なお、旧国税通則法第二三条第三項によればこのような場合更正をすべき理由がない旨を更正の請求をした者に通知することとされており、昭和四〇年法律第三三号による改正前の所得税法第四五条第二項のように理由を附することを要求されていないから、右理由が適切でなく誤りがあるとしても本件原処分を違法ならしめるものではない。

よつて、控訴人の本件原処分取消の請求は理由がない。

2  四三・三・一三裁決及び四三・九・一一裁決について

(一)  四三・三・一三裁決及び四三・九・一三裁決に至るまでの経緯

次に述べる事実については、当事者間に争いがない。

すなわち、控訴人は、昭和四二年五月二四日付で本件原処分について、上京税務署長に対し異議を申し立てたところ、上京税務署長は、同年九月一六日、右異議申立を棄却する旨決定した。そこで、控訴人は、同年一〇月一五日、右異議申立棄却決定について大阪国税局長に対し審査請求(四二・一〇・一五審査請求)を行なつた。その後、控訴人は、被控訴人敦賀税務署長管轄区域内、従つて被控訴人金沢国税局長の管轄区域内へ住所を移転したところ、被控訴人金沢四税局長は、昭和四三年三月一三日付で、控訴人の四二・一〇・一五審査請求を却下するとの裁決(四三・三・一三裁決)を行なつた。同裁決の理由は、控訴人の前記異議申立について、異議申立のなされた昭和四二年五月二四日の翌日から起算して三月を経過する日までに異議申立について決定がなされなかつたので、旧国税通則法第八〇条第一項第一号の規定により同年八月二五日に大阪国税局長に対し審査請求(みなし審査請求)がなされたものとみなされたところ、控訴人の四二・一〇・一五審査請求は適法に審査請求がなされたものとみなされた後に行なわれた二重の審査請求であるから、これを却下するというものである。そして、被控訴人金沢国税局長は、みなし審査請求について、昭和四三年九月一一日付で、同審査請求を棄却するとの裁決(四三・九・一一裁決)を行なつた。

なお、〈証拠省略〉によれば、控訴人の右異議申立書が上京税務署長により受理された日は、昭和四二年五月二五日であることが認められる。

(二)  四三・三・一三裁決の取消を求める訴の利益について

被控訴人金沢国税局長は、控訴人が本件において、いわゆるみなし審査請求について同被控訴人が実体的判断を加えた四三・九・一一裁決の取消を求める以上、右みなし審査請求に遅れて同一の本件原処分について重複してなされた四二・一〇・一五審査請求を不適法として却下した四三・三・一三裁決の取消を求める訴えの利益は存在しない旨主張する。

控訴人は本件においてみなし審査請求に関する規定の適用を争い、四二・一〇・一五審査請求を不適法として却下した四三・三・一三裁決の手続の違法を理由としてその取消を求め併せて、被控訴人金沢国税局長がこれと異る見解に基づき同一の原処分たる昭和四二年九月一六日の異議棄却決定に対し別箇のいわゆるみなし審査請求があつたものとしてなした四三・九・一一裁決についてもその手続の違法を理由としてその取消を求めているのであり、かりに、四三・九・一一裁決が判決により取消しされたとしても、必ずしも四三・三・一三裁決の瑕疵の存否が判断されたことにならない場合もありうるのみでなく四三・九・一一裁決についての判決が四三・三・一三裁決と予盾することもありうるから、控訴人は右裁決については救済を受けられないこととなる。また、仮りにいわゆるみなし審査請求に関する規定が本件に適用されないとすれば、四三・九・一一裁決は、請求なくして開始された違法な審査手続として取消を免がれないこととなるから控訴人が四三・三・一三裁決の取消を求める法律上の利益がないということはできず、被控訴人金沢国税局長の右主張は採用できない。

(三)  そこで、すすんで四三・三・一三裁決の適否を検討する。

控訴人は、控訴人の前記異議申立については、上京税務署長が昭和四二年九月一六日に決定を行なつているのであるから、何らの決定なき場合と同視して旧国税通則法第八〇条第一項第一号の規定を適用したのは、同規定の解釈を誤つたものであると主張する。

しかし、旧国税通則法第八〇条第一項第一号の規定によれば、異議申立がされた日の翌日から起算して三月を経過する日までに、その異議申立について決定がなされない場合には、異議申立人において別段の申出をしたときを除き、その経過する日の翌日において、国税局長に対し審査請求がなされたものとみなされ、事件は自動的に国税局長に対する審査請求として移行することが明らかである。

本件においては、控訴人から上京税務署長に対し昭和四二年五月二四日付で異議申立がなされ、同異議申立は翌二五日上京税務署長に到達しているが、同二五日の翌日から起算して三月を経過する日までに同異議申立について決定がなされなかつたので、旧国税通則法第八〇条第一項第一号の規定により、その経過する日の翌日、すなわち同年八月二六日に審査請求がなされたものとみなされたというべきである。上京税務署長は同年九月一六日に右異議申立について決定を行なつているが、これは事件が既に同年八月二六日に審査請求手続に移行していることを看過したもので、無効というほかなく、右同日付でなされたとみなされた審査請求がこのような決定により遡つて効力を失うものと解することは、明文の根拠を欠くうえ、手続の明確性、安全性を害することになるものと考えられる。

したがつて、控訴人の四二・一〇・一五審査請求は、昭和四二年八月二六日に適法な審査請求がなされたものとみなされた後に行なわれたものであるから、二重の審査請求というべく、これを却下した四三・三・一三裁決は適法である。

なお控訴人は、上京税務署長が、本件異議申立棄却の決定に対し大阪国税局長に審査請求できる旨を説示しているから、右説示に従つてなした現実の審査請求は適法であり、この場合みなし審査請求の規定は働かないと主張するが、右主張を構成する法律上の根拠がないばかりか、かりにそのような事実があつたとしても、控訴人に対しては法律の規定によりすでに審査請求があつたものとみなされ右説示以上の不服申立者に対する手続上の保障が付与されているのであるから、あえて右説示に従つた取扱いをする実益もない。したがつて右主張は採用できない。

(四)  四三・九・一一裁決の適否

控訴人は、被控訴人金沢国税局長が昭和四二年八月二五日に審査請求がなされたものとみなしたことは違法であり、したがつてこれに対する四三・九・一一裁決も違法であると主張する。しかし、昭和四二年八月二六日に審査請求がなされたものとみなすべきこと、前述のとおりである。被控訴人金沢国税局長が同月二五日に審査請求がなされたものと判断したのは、日付において一日の誤りを犯したものというべきであるが、同被控訴人は控訴人の同年五月二四日付の異議申立が審査請求に移行したと判断しているのであり、同年八月二六日になされたものと適法にみなきるべき審査請求について裁決していることは明らかである。そして、右のように審査請求がなされたものとみなすことが適法である以上、これに対する四三・九・一一裁決も適法であり、これを取消すべき理由はない。

なお、控訴人は、請求原因4の(二)及び(三)において、本件更正請求は適法であるにもかかわらず、これを不適法として却下した本件更正請求却下処分を支持した四三・九・一一裁決は違法である旨の主張しているが、右主張は畢竟原処分たる本件更正請求却下処分の違法を理由として四三・九・一一裁決の取消を求めているものというべきであるから、行政事件訴訟法第一〇条第二項の規定により、主張自体失当といわなければならない。

二  以上の次第で、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であつて本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 西岡悌次 富川秀秋 西田美昭)

別表〈省略〉

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